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2005.06.09

ブランドン・ロスBrandon Ross"コスチューム"バンドと菊地成孔pepe tormento azucararを一晩で楽しめるTOKYOは、ほんとうはNYにも負けてないと思う

9日、恵比寿リキッドルームにて。タワーレコード発行のフリーペーパー、intoxicate主催のイベント“koolhaus of Jazz”。


数年前、ニューヨークに初めて遊びに行ったとき、マイケル・ブレッカー(sax)のグループのライブに行った。さほど広くない会場で2ステージたっぷり楽しめてチャージがわずか30ドル。MCでブレッカーが「It's good to be home」と漏らしたのを聞いて「ああ、これがニューヨークだ」と思った。世界のトップミュージシャンが生活し、世界中を周った後に帰り着く街。この点だけは、東京はかなわないよなあ。

とはいえ、東京はNYと同じように世界中からミュージシャンがやってきてライブやってくれるもんね。だからNYに行ったらNYでしか聴けないものを聴きたい。そう思ってチェックしたところ、ヘンリー・スレッギルのバンドがニッティング・ファクトリーに2夜連続で出演することがわかり、2晩とも通うことに。そのバンドのギタリストがブランドン・ロスだ。カサンドラ・ウィルソン(vo)のサポートで一躍脚光を浴びたが、NYのジャズシーンの中でも、もっともトンガったギタリストの一人だろう。「かっちょええー、さすがNY!」と"おのぼりさん"状態で興奮しつつ聴いたのを覚えている。

そのときはまさか自分が将来ブランドンにインタビューすることになるとは夢にも思わず。つい先日、お話を伺ってきました。掲載は現代ギター8月号の予定。

インタビューの話自体、急だったので、8日のワンマンライブ(新宿ピットイン)はすでに前売り券を購入済みだったが、この日のイベントには招待していただいた。ありがたや。でも招待されなくとも行ってましたとも。もう一組の出演は菊地成孔さんの新しいプロジェクトで、こちらも興味津々だったのだ。

一番手はブランドン。8日も十分良かったけど、実は時差ボケと取材疲れで本調子ではなかったのか?と思わせるほど、9日はさらに良かった。エレキギター、バンジョー、アコギと使い分けるサウンドは繊細にして豪放。アコースティックの美しい響きとハードなディストーション・ギターのコントラストがたまらん。どちらのサウンドも大音量でクリアに響かせるPAの良さも特筆に価するだろう。ツトム・タケイシさんのベースがまたズシンといい音で鳴ってたなあ。

なにより心地よかったのは全編を貫く独特の美意識だ。終盤をバーンと盛り上げて大団円、てなことは絶対しないのね。イクときはイクのだけど、"イキっぱなし"じゃなくて必ず戻ってくる。8日に聴いたときは最初ちょっと戸惑ったものの、これがある意味"予習"になったようで、この日は100%楽しめた。アンコールのロン・マイルス(tp)とのデュオも渋かったなあ。


対する菊地成孔さんのバンドpepe tormento azucarar(ぺぺ・トルメント・アズカラール)はこんな編成:

  サックス&ヴォーカル:菊地成孔
  バンドネオン:北村聡
  弦楽四重奏:徳沢セイゲン他
  パーカッション×2:大儀見元他
  ピアノ:南博
  ベース:鈴木正人
  ハープ
  ヴォーカル:カヒミ・カリイ

全部で12人か。デートコース・ペンタゴン・ロイヤルガーデン(DCPRG)のアコースティック版? DCPRGの集団即興曲「Catch22」を思わせる混沌とした展開も。だがもっと猥雑だ。そして"いかがわしい"。

何たるいかがわしさ。菊地さんが自分で歌ってしまうところからしてそうだ。決して上手くはない。とんでもないナルシストにも見えるが、おそらくそれも意図的で、計算づくなのだろう。これでサックスがあまり上手でなかったら説得力がないのだけど、菊地さんは若くして山下洋輔グループに抜擢された経歴もあるほどのサックス奏者なのだ。

バンドネオンとハープが絶妙のスパイスになっており、特に期待のバンドネオンは良い方に予想が外れて全編大活躍。北村さんかっこよかったなあ。メンバー紹介でも一番最後。完全に主役級の扱いだ。

これは本当に画期的なことだと思う。というのも、バンドネオンは2つの意味でとても不自由な楽器なのだ。

一つは演奏のしにくさ。そりゃどんな楽器だって自在に演奏するのは難しいだろうけど、特にアルゼンチン・タンゴで使用されるディアトニコ式のバンドネオンはボタン(鍵盤)の配列が不規則で合理的な構造になっていない。ジャズのような即興演奏をやろうと思ったら相当な困難が伴うはず。北村さんが渡された楽譜には、テーマ部以外はほとんどコード進行しか書かれていなかったそうだ。つまり大部分は北村さんの即興ないし(事前に考えておいたとすれば)「作曲」ということになる。伝統的なアルゼンチンタンゴにジャズのような即興パートは存在しないから、こういったスタイルの演奏に挑戦しているバンドネオン奏者はかなり貴重なはず(少なくとも日本では)。

もう一つの「不自由さ」は、同時にバンドネオンの最大の魅力でもある。すなわち音色だ。あまりに強烈で、文字通り音楽に「色」をつけてしまうから、タンゴ以外の他ジャンルにおいて調和させるのは難しい。しかも今の場合、あくまでアンサンブル主体の音楽だから、バンドネオンが自己主張しすぎて突出してもいけないんだよな。だがこの問題も、北村さんのセンスと技術、そして菊地さんのアレンジによって、ほぼ解消されていたと思う。一時的なプロジェクトなのかと思ったらレギュラーバンドだそうで、この日は「デビュー・ライブ」だったらしい。まだまだ進化しそうで、今後が楽しみだ。次回は7月7日に代官山UNITでワンマン。


ブランドン・ロスのNY最先端ジャズと菊地成孔のフェイク南米風ジャズ。こんな組合せが聴けるのも東京だけだろう。そしてこれらは紛れもなく、東京から世界に向けて発信される音楽なのだ。

「でもブランドン・ロスはNYから来てるじゃないか」と思われた方、彼が東京でライブをやっている理由を思い出してください。その長いキャリアにおける初リーダー作「コスチューム」をリリースしたのは東京のintoxicateレーベルじゃないですか!

梅津和時さん率いるシャクシャインの傑作アルバム「DESERT IN A HAND」が完成後1年を経てNYのKnitting Factory Worksからリリースされたとき、日本人によるこれほど優れたアルバムを積極的に出そうとする日本のレーベルが無かったという事実に愕然としたことを思い出す。ちょうど正反対のことが起こったんだな、と思うと、ちょっと愉快だ。

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Comments

Before starting correcting your credit history, you must get an imitation of one's studies to learn what must certanly be done and in which anyone currently remain

Posted by: credit karma login | 2014.06.07 at 10:29 PM

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Tracked on 2005.06.20 at 10:41 AM

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