ちなみに「1番目」は数年前のきわめて個人的な体験。「2番目」は未来のために空けておきます。
12月23日
劇団「燐光群」主宰で劇作家・演出家の坂手洋二さんが俳優として出演するというので話題の芝居、「セパレート・テーブルズ」(テレンス・ラティガン作/マキノノゾミ演出)の上演がこの日までだった。これを見逃すわけにはいかない。新宿スペースゼロへ。当日券5000円のところ、同シリーズの「ウィンズロウ・ボーイ」(ラティガン作/坂手洋二演出)の半券提示で500円引き。「ラティガン祭り」の残り一つ「ブラウニング・バージョン」も見ていれば1000円引きになるところだった。粋なシステムだなあ。
坂手さんは前半しか出ない、という話を伺っていたのだけど、実はこの芝居、前半と後半がほぼ独立したストーリーになっていた。そして坂手さんは言わば前半の主役。屈折した恋愛感情を表現しなければならない難しい役どころながら、堂々たる演技。いかにもキレ者という風貌も役にぴったり。これがきっかけで「俳優・坂手洋二」に対して出演オファーが殺到したら創作活動に支障が出ちゃうんじゃないか、と余計な心配までしてしまった。
後半は山田まりあが素晴らしい。精神的な問題を抱えた女性の役で、やはりかなりの演技力が要求されるはず。グラビアアイドル、バラエティタレントのイメージを快く裏切られる。タダ者ではなかったんだなあ。ファンになりそう。
内容については検索して他のレビューをあたってください。舞台は1950年代?あたりのイギリスだけど扱っているテーマは普遍的で、心にずしりと響く内容。スタイルとしては「ウェルメイド」になるのだろうか。でもそんな言葉で簡単に分類してしまうのは気が引けるような、中身の濃い舞台。そして休憩を挟んで3時間を悠に超える長丁場。しかもまったく飽きない。前半・後半それぞれが1本分くらいのボリュームがあるので、2本立てと考えると1本あたりのコストパフォーマンスは非常に高いことになる。他の娯楽とも十分張り合える値段で、かつ誰でも楽しめる内容なのだ。その辺はもっと強調されていいと思うんだけど。
12月24日
浅草アサヒアートスクエアのカルメン・マキ+鬼怒無月(ゲスト:喜多直毅、佐藤芳明)にも強力に惹かれつつ、恵比寿リキッドルームの「koolhaus of Jazz III」へ。さまざまなスタイルを持つ7人の歌手が芳垣安洋(ds)をリーダーとするスペシャルバンドをバックにスタンダード歌うというクリスマス特別企画。歌手のみなさんも皆個性的で素晴らしいのだけど、僕の最大の関心はギタリスト内橋和久さんがスタンダードでどんな演奏を聴かせてくれるのか、という点にあった。内橋さん率いる即興ジャズロックトリオ(すごく適当に言ってます)、アルタードステイツも1枚だけスタンダード集を出しているけど、これはフリージャズ的なアプローチ。歌モノのスタンダードをまとめて演奏する機会なんて滅多にあるもんじゃない。開演前からワクワク。
そしてたしか2曲目くらいだったか。内橋さんのギターソロの最初のフレーズが耳に突き刺さった瞬間、上半身のみぞおちあたりから上全体がカーッと熱くなるのを感じる。
かっこよすぎますよ内橋さん。やっぱビル・フリゼル超えてますね!!いやわかってましたけど!
というのはそのとき湧き上がった感情をできるだけ忠実に描写しようとした結果なので、フリゼル・ファンの皆さん怒らないでね。ていうか僕もフリゼル大好きですよ。そしておそらく内橋さんも。
内橋さんが80年代あたりまでのフリゼルに影響を受けているのはインタビューなどからも間違いない。しかしその後内橋さんが到達したスタイルは極めてユニークで、掃いて捨てるほどいるフリゼルのfollower達とは明らかに一線を画しているのだ。だから内橋さんがこの日のように「フリゼル風」と形容したくなるようなサウンドを聴かせるのは逆に珍しく、フリゼルも好きな内橋ファンである僕にとって、言わばクリスマスプレゼントみたいなもの。脳に染み入るように心地よいギターの音色とフレーズを存分に堪能した。
歌手の中でもっとも印象に残ったのは松田美緒さん。ポルトガルのファドに影響を受けた歌手と聞いているけど、同じポルトガル語のブラジルものも得意。なにせネイティヴみたいに喋れるのだ。実は松田さん、先月のヤマンドゥ・コスタ来日公演にもゲスト出演されており、流暢なポルトガル語でメンバーとコミュニケーションを取っていた。バックステージで会っていたらスタッフの日系ブラジル人と間違えてたりして。あのときはヤマンドゥ・コスタの衝撃があまりに大きかったのでつい触れそびれてしまったけれど、今回あらためてじっくり聴くことができて、豊かな声量と日本人離れした歌いっぷりを再認識。
別の意味でインパクトが大きかった「歌手」は菊地成孔さん。「ロシア系ユダヤ人」になり切った?MCが爆笑もの。歌ははっきり言って下手。しかしそれを逆手に取っている。クリスマスソングに加えて松田聖子の「スウィートメモリーズ」までカバーしていたけれど、リハーサルで「もっと地獄のように」と指示したというバックのサウンドと下手糞な歌とのマッチングが最高。最上級の敬意を込めて「史上最悪のスウィートメモリーズ」と評したい。
12月25日
またしてもリキッドルームで、雑誌SWITCH主催による招待制のUAライブ。気付いたときには応募が締め切られており地団太を踏んでいたところに「拾う神」が!(抽選に漏れた方に申し訳なくて詳細は書けません) バンマスは内橋さんである。僕にとって本当に嬉しい「内橋2days」となった。
やはり内橋さんがアレンジとバンマスを勤めた夏の野音とよく似た編成(eijiさんのblog参照)。野音との大きな違いはまず音響だ。この日、予想外に音量が小さいのが新鮮だった。もちろん他のロック系のライブなどと比較して、という意味であって聞こえにくいわけではない。むしろ細かいアンサンブルが聞き取りやすく、冴えわたるアレンジの妙が実感できる。UAの声も、うっとりするほど自然な艶やかさで響き渡った。
J-POPのもっとも進化した形がここにある。ビヨークっぽく聞こえるところがあるって?僕はそうは思わないけど、百歩譲ってそうだとしよう。そこにはある種の必然がある。なにしろ内橋さんは、ビヨークの重要なサポートメンバーであるジーナ・パーキンスらと96年にポップスユニット「KAN-PAS NEL-LA(カンパネルラ)」を結成しCDも発表しているのだ。内橋さんもビヨークぐらい聴いているだろうけど、きっとビヨークもジーナ・パーキンス経由で内橋さんの影響を受けているはず。
という仮説は、果たして大胆すぎるだろうか?
真偽はどうでもいい。でも「そんなことはあり得ない」と決めてかかるのは、単なる洋楽コンプレックスじゃないのかな。
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