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2005.12.10

今堀恒雄Unbeltipo Trioによる音楽の実験場としての新宿ピットイン、そこに参加する快楽

たとえば1960~70年代頃の、ジャズが劇的に進化した時代に、ニューヨークに住んでいてライブに行きまくっていたらどんなに刺激的な毎日だったろう?そんな人がいたらちょっと羨ましい。でももしその人がすでにお亡くなりになっているとしたら、大して羨ましくない。

過去の音楽はCDやDVDである程度追体験することができる。もちろんそれはリアルタイムで生で聴くこととはまったく意味が違う。しかし代わりに、同じくらい刺激的かもしれない(完全に同じ状況で聴き比べるのは不可能なのだから厳密に優劣を論じるのはあまり意味がない)21世紀のTOKYOの音楽シーンをリアルタイムで体験できるのだ。どこに引け目に感じる理由があるだろう?

僕が心底羨ましいのは、もっと面白くなっているかもしれない音楽をリアルタイムで体験できる、遠い未来のリスナーだけだ。未来が今より面白くないかもしれない、と感じる人って人生辛そう。余計なお世話だけど。僕は20年くらい東京のライブシーンを見続けてきて、面白くなる一方なのである。未来はもっと面白くなるはず、と信じるには十分でしょ。

それでも、1997年にティポグラフィカ、翌98年にシャクシャインと立て続けに解散した頃にはさすがにブルーになりましたよ。もっとライブを見まくっていれば良かったという後悔と喪失感。ティポグラフィカはポニーキャニオンとの契約が2枚で切れちゃうし(ただし業界の状況を考慮して現実的に考えるとメジャーレーベルとしてあの手のアルバムを「2枚も出した」英断をむしろ賞賛すべきかもしれない)、シャクシャインの2ndアルバム(傑作!!!)が録音後約1年もお蔵入りになってしまい、結局日本のレコード会社はどこも手を挙げずアメリカのニッティングファクトリーから出たという事実。世紀末の悪夢だ。

しかしその後の状況はどうだ。梅津和時さんは鬼怒無月を擁する「KIKI BAND」を結成し、現在も活発に活動中(新メンバー加入でさらに楽しみ!)。今堀さんは一時期かなりライブ活動が減ったものの、ソロプロジェクトUnbeltipoを立ち上げる。

忘れもしない、Unbeltipoの初ライブは菊地成孔さんとのデュオだった。打ち込みによる強烈なブレイクビーツの嵐の中、唸りを上げるサックスとギター。一説にはティポグラフィカファンにはあまり評判が良くなかったらしいのだけど、僕は興奮したなあ。「ああこれが、ティポグラフィカを解散させてまで今堀さんがやりたかったことなんだ」と思うと余計に。

僕が勝手に理解したのはこういうことだ。ブレイクビーツであれなんであれ、人間にできることなら人間がやった方がかっこいい(なぜそうなのか、ということを考察しだすと大変だが、「人力ドラムンベース」を標榜するROVOなどの例を見ればわかりやすい)。打ち込みでやるからには、人間には到底実現不可能なことを機械にやらせ、人間は人間にしかできないことをやる。それがUnbeltipoだと。

Unbeltipoの1stミニアルバムは「現代パフォーミングアーツ入門」でも毎年紹介するほどのお気に入り。同じようにすごく気に入っているくれる学生もいる一方で、「理解不能」といった感じの反応を示す学生が過半数。それでいいと思う。インパクトさえ感じてくれれば。

このアルバムの出来には今堀さん自身満足されているようなのだけど、当時のライブについては不思議と「いくらやっても燃えない」という状態だったのだそうだ(「現代ギター」インタビュー参照)。いやライブはライブで毎回異なるゲストを迎えたりしてすごく楽しみだったのだけど。

そんな中、今堀さんが再び結成した固定メンバーによるバンドがUnbeltipo Trioである。ティポグラフィカという、ある意味「人間による究極のバンド」を解散させ、「機械」へと向かった今堀さんが、再び「人間」に戻ってきた。この意味は大きい。

とはいえ、今だから言えることだが、正直、最初はよくわからなかった。いやそりゃかっこよかったですよ。そもそもギタリストとしての今堀さんはわかりやすく言えば「テクニカルなフランク・ザッパ」というイメージ(全然わかりやすくないか)で、普通にガンガン弾いてるだけでかっこいい。トリオという最小限のフォーマットのお陰で必然的にギターの比重が大きいから、そこは堪能できた。もしくは一風変わったジャムバンドと思えば最高。ナスノミツル(B)、佐野康夫(Ds) というリズムセクションも強力だ。

しかしアナタ、これは「ポスト・ティポグラフィカ」なのですよ。DCPRG、東京ザヴィヌルバッハ(以上菊地成孔)、Phonolite(水谷浩章)、ラクダカルテット(水上聡)といった元メンバー達による意欲的なバンドがシノギを削る中、満を持しての「本家」登場なのである。生半可なことで満足できますか。

それでやっと12月9日の話になるのだけど、個人的にやっと、「腑に落ちた」というのが今回のライブ(セットリストは12/3の関内と同じと思われるので、eijiさんのblogをどうぞ)。「あ、こういうことか!」とポンと膝を叩きたくなるような。インタビューでじっくりお話を伺う機会に恵まれ、アタマでの理解も深まったのだろう。しかしそれ以上に、トリオの演奏自体も完成度が上がってきたのではなかろうか。不遜な言い方をすれば、今堀さんのコンセプト(僕自身をそれをきちんと説明することはできないけれど)がバンド全体に浸透してきた印象。ひらたく言うと3人のグルーヴがかっちり噛み合ってきた。そんなことはもっとシンプルなギタートリオだったら当たり前なのだけど、一筋縄ではいかないのが今堀さんの音楽。リズムが柔軟に変化し、何かのきっかけでガチっと切り替わる。そこにどういうルールないし約束事があるのかは見ていてもよくわからないけれど、わからないからこそスリリング。

今堀さんが「修行のよう」と冗談めかして形容するように、この音楽はまだまだ「未完成」なのだろう。しかしそれは、かつてジャズの巨匠達が、新しいスタイルを模索して試行錯誤していた現場にも似ているんじゃなかろうか。そんな空間を共有することの幸福を実感せずにはいられない。来年以降、このトリオと並行して、トリオ+αの編成を模索していくのだという。期待は膨らむ一方で、ますます目が離せない。

ね、どう考えても「未来はもっと面白くなるはず」でしょ?


蛇足ながら、この日は超大物歌手がご来場。終演後ニコニコしながらスタッフの方と談笑しておられたので、楽しんでいただけたのだと思う。「お元気ですか~」と挨拶したかどうかは知らないが。。。

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