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2007.11.07

クアトロシエントス ライブレポート(ラティーナ2007年8月号より)

ワールドミュージック系音楽誌ラティーナ8月号に寄稿した、ヴァイオリニスト会田桃子率いるタンゴバンド、クアトロシエントスのライブレポートを転載します。タンゴのエッセンスを取り入れつつ独自のサウンドを展開するSalle Gaveauに対し、クアトロシエントスはタンゴのフォーマットの中でオリジナリティを追求したバンドとして、非常にハイレベルだと思います。次回のライブは11月13日(火)南青山マンダラで、ゲストは前回と同じ堀越彰さん(ds)。

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 "小松亮太以降"の世代の台頭が目立つ昨今のタンゴ界。その中でも先頭を走り続けるクアトロシエントスの、恒例となった初夏のライブを6月4日、南青山マンダラで聴いた。

 このバンドの大きな特徴は会田桃子(vln)、北村聡(bn)というタンゴ界の逸材に加え、西嶋徹(b)、林正樹(pf)というジャズ界の若手トップ奏者をメンバーに据えたことにある。今回はさらに、一昨年以来2度目の共演となるドラマー堀越彰がゲスト。筆者が2001年頃見た深町純(pf)、渡辺剛(vln)と堀越のトリオによるライブは「ピアソラ作品と即興演奏の融合」というアプローチにおいて画期的な成功を収めたもので、「タンゴにおいて打楽器が効果的な役割を果たすことは難しい」という先入観を覆された。堀越は林のカルテットSTEWMAHNに西嶋と共に参加しているだけでなく、かつて山下洋輔のグループで堀越と共演した人気サックス奏者菊地成孔のバンド「ペペ・トルメント・アスカラール」に現在は北村が参加しているという縁もある。こうした結びつきは単なる偶然というより、異ジャンルのコラボレーションによって活気付く東京の音楽シーン全体を象徴しているように思えてならない。クアトロシエントスもまた、確実にその最先端の一角を占めているのだ。

 とはいえ彼らは、基本的にはタンゴバンドとしてのアイデンティティを崩さない。1曲目の会田作曲「森のホール」に続き「ラ・クンパルシータ」も会田のオリジナル編曲だが、これらは奇を衒うことなくタンゴの本質をしっかり押さえたものだ。堀越が加わった「鯖」(林作曲)~「悪魔のロマンス」~「鮫」~「人吉森のブルース」(林作曲)が前半のハイライト。林のオリジナルは自身もメンバーであるアヴァンギャルド・タンゴバンドSalle Gaveau(サルガヴォ)の楽曲に通じる独創性を備えつつ、そこにピアソラが挟まれても違和感がない。他方「あなたと朝ご飯」「私の希望のすべて」といった会田のオリジナルはロマンチックな作風で、ここでは彼女のヴァイオリンの音色とフレージングが冴える。なによりこれだけのメンバーを率いるリーダーとしての力強さが印象的で、ここ最近の成長ぶりを感じずにはいられない。

 後半は林の叙情的なソロに導かれる「悲しみの中の狂気」(会田作曲)から始まり、2曲目の「リベルタンゴ」(林編曲)で一気に熱を帯びた。「ペペ~」で菊地成孔と渡り合う北村のアドリブ・ソロはこの日も絶好調。前半で見せたタンゴ・アンサンブルとしての緻密さはある種の"硬さ"にも通じるのだったが、次第にジャズ的な"しなやかさ"が加わってくる。軽快なミロンガ「カルカッタ」(林作曲)のユーモラスな楽しさ、アンコールの「アレグロ・タンガービレ」で見せた鳥肌の立つような疾走感など、このバンドの真骨頂を堪能した。

 全20曲中、実に12曲がメンバーのオリジナルで、残りの曲もすべてオリジナルアレンジ。だがもはやオリジナリティをことさらに強調する必要は無く、その質こそが評価されるべき段階に来ている。
(徳永伸一郎)

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少々補足しておきます。文中に出てくる深町純、渡辺剛、堀越彰のトリオはその後「The Will」という名称で活動しCDも出ていますが、元々は舘形比呂一ソロ・ダンスパフォーマンス「白鳥の歌」(2001年)の伴奏を務めたメンバーです。当時の演奏スタイルは「The Will」とは違い、即興性の強いものでした。「The Will」にもピアソラの「エスクアロ」が入っているのですが、これも当時の演奏とはかなり異質なものです。

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