« April 2008 | Main | September 2008 »

2008.06.07

「想いの届く日」/大萩康司

現代ギター2008年4月号「新譜案内」より大萩康司「想いの届く日」のレビューを転載。

Cd

収録曲は以下の通り:

1. 思いの届く日(カルロス・ガルデル)
2. ロンドンデリーの歌(アイルランド民謡)
3. オーバー・ザ・レインボー(ハロルド・アーレン)
4. サマータイム(ジョージ・ガーシュウィン)
5. 早春賦(中田章)
6. 失われた恋(ジョセフ・コスマ)
7. 星の世界(チャールズ・C・コンヴァース)
8. シークレット・ラヴ(サミー・フェイス)
9. ヒア・ゼア・アンド・エヴリウェア(J・レノン、P・マッカートニー)
10. ミッシェル(J・レノン、P・マッカートニー)
11. ヘイ・ジュード(J・レノン、P・マッカートニー)
12. イエスタデイ(J・レノン、P・マッカートニー)
13. インターナショナル(ピエール・ドジェイテール)
14. ディアナ(ウェイン・ショーター)
15. アリラン(韓国民謡)
16. 愛のロマンス(スペイン民謡)
17. 愛の賛歌(マルグリット・モノー)
18. シラキューズ(アンリ・サルバドール)


大萩にとって初の「名曲集」ともいうべき小品集。魅力的な小品の演奏も印象深い大萩だけに、とりわけ「12の歌」は楽しみにしていたファンが多いだろう。待望の大萩版は情緒に溺れ過ぎず、深みを兼ね備えた明るさを感じさせる音色が特徴だ。武満ならではの"非ギター的"な音遣いの処理にギタリストの個性が現れるわけだが、大萩の演奏は実に軽やかで自然に流れ、そもそもそんな箇所など存在していないかのように思わせる。タイトル曲と「アリラン」はそれぞれアルゼンチンと朝鮮半島を代表する名曲であり、優れた編曲(ビジャダンゴス、金庸太による)と大萩の表現力によって極上のメロディがあらためてクローズアップされた形だ。ディアンス編の2曲と合わせた"4つの歌"はいずれも今後ギタリストの人気レパートリーになっていくに違いない。さりげなく挟みこまれた「ディアナ」のモダンな響きが、これまたハッとするほど美しい。


***

以下追記。

記事では「大萩版」のところを「大萩盤」と変更されてしまったのだけど、CD全体じゃなくて「12の歌」について言及しているのだから「版」でいいと思うんですが。まあ細かいことです。

整理しておくと、「12の歌」を全曲録音している日本人ギタリストは僕が把握している限り大萩さんの他に、荘村清志さん、佐藤紀雄さん、福田進一さん、鈴木大介さん(まだいると思いますが)。佐藤紀雄さんはLP時代の録音でCD化されていないので入手は絶望的ですね。鈴木大介さんは2回録音。あと数曲抜粋して録音してる人は村治佳織さんはじめ多数。

レビューに付け加えることはあまりないのだけど、妥協のない選曲は本当に素晴らしいと思う。大萩さんのアルバムは毎回コンセプトがしっかりしているのだけどそれでも、「ジスモンチならそれじゃなくてアレを入れて欲しかったな」といった個人的な願望も含め、「惜しいな」と思う選曲が1・2曲はありました。でも今回は完璧。こういう「名曲集」はなかなかないですよ。「アリラン」は金さんのCDでは二重奏版だったのだけど、金さん自身がよくコンサートで演奏している独奏版も良いアレンジだと常々思っていたから、こうして世に出たのは喜ばしい。「シラキューズ」は僕がライナーノートを書いている竹ノ内美穂さんのCDで聴いて「なんて美しいメロディだろう」と思った曲。大萩さんにはまさにぴったりでしょう。ちなみに竹ノ内さんの演奏も僕は非常に気に入っており、この曲に関する限り甲乙つけ難いと思ってます。MAレコーディングスなので録音クオリティも極上。

選曲について、すぐに気付くのは「禁じられた遊び」と「ディアナ」のみ異質であるということ。この2曲のみ「歌」ではないし。

本人がどこかで触れていたと思いますが、「禁じられた遊び」には大萩さんから母親へのプレゼントという意味合いがあります。彼がギターを始めたのは母親の影響なのですが、にも関わらず、母親にとって馴染み深い曲の録音というのがこれまで非常に少なかった。なので「名曲集」にはどうしても「禁じられた遊び」を入れたかった、という話を伺った記憶があります(記憶が曖昧なのであまり正確ではないかもしれませんが大筋で間違いないと思います)。単に誰でも知っている曲だから入れた、というわけではないんですね。

「ディアナ」だけは当初意図がわかりませんでした。これは渡辺香津美さんがCD「おやつ」に収録するためにアレンジしたもので、その後福田進一さんも録音しています。大萩さんは福田さんの後追いという形での録音が比較的多いのですが、それにしてもなぜこの曲を? そこで本人に直接メールで質問。すると明快な回答が返ってきました。「12の歌」が終わった後、次の「歌」に繋げるための「間奏曲」にしたかった、というものです。これは本人がインタビュー等で話していなければ新事実かな?私信ではありますが、一応ライターとしての正式取材ということで公開させていただきます。

というわけで唯一残った疑問は氷解し、「完璧な選曲」という評価に至った次第です。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

« April 2008 | Main | September 2008 »