2009.03.07

「大地に眠る歌」/アリエル・アッセルボーン

「現代ギター」2008年10月号「新譜案内」に掲載されたCDレビューです。

Cd

アリエルの演奏スタイルを「弾き語り」と呼ぶのは抵抗がある。ギターパートがあまりに高度なので、歌手+ギタリストの「一人二役」というイメージなのだ。<花の咲いたところ>のギターなんて、「伴奏」という発想ではまず出てきそうにないかっこよさ。全曲オリジナル(うちインスト2曲)だが、バックグラウンドとなる南米のフォルクローレが持つ音楽性の豊かさも、あらためて実感できる。欧州からの移民とその子孫たちが南米で様々な音楽を創り上げたように、あるいはピアソラがNYやイタリアから重要な作品を世に送り出したように、南米を飛び出したアリエルによって、新たな"移民の音楽"が生み出されようとしている。ホール録音の美しさも絶品。

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以下補足。

そのジャンルの、いわゆる「本場」に、レベルの高いミュージシャンが多いのは事実であるとしても、「最高のものは常に"本場"にある」という神話が幻想であることは、ピアソラの例ひとつとっても明らかでしょう。ピアソラがずっとアルゼンチンに住んでいたらあの音楽は生まれなかったはず。アリエルがアルゼンチンではなく日本で創作活動を行っているということが、実はとても重要で価値のあることなのです。

「レコード芸術」誌のレビューを担当しておられる浜田滋郎さん、浜田三彦さんはギターのことをよくわかってらっしゃるので、アリエルの演奏技術の素晴らしさについてきちんと言及されてました。僕も字数もらえたらもっと書きたかったけどね~

短いレビューほど難しいのですが、原稿料はだいたい字数に比例します笑


なお、大萩康司さんの新譜「風の道」(3月18日発売)には大萩さんがアリエルに委嘱し初演した2作品が収録されています。うち1曲がタイトル曲「風の道」。こちらにもご注目を!

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2008.09.28

「時には一輪の花を」/アリエル・アッセルボーン

現代ギター2006年11月号のレビューより、アリエル・アッセルボーンの1stアルバムのレビューを転載。実は2008年10月号に2ndアルバム「大地に眠る歌」のレビューを書いているのですが、現在店頭に並んでいますので、こちらにはもう少し経ってから載せます。

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アルゼンチンのフォルクローレをバックグラウンドに持つ東京在住のシンガー&ギタリスト、アッセルボーンのソロデビュー作。美声の陰に隠れて見落されがちだが、「…君を想う」でのハーモニクスを駆使した複雑なバッキングパターンなど、随所に見られるユニークなアイディアが素晴らしい。しかも彼はこれを歌いながら弾くのである(先日実演に接して驚愕!)。でもこのCD、大手ショップでは「癒し系」で括られちゃうんだろうなあ。実際、クラシックギターで鍛えられた繊細な音色は耳に心地よいのだけど…せめて本誌の読者には、彼の優れた技術とセンスにしっかり注目して欲しい。インストにも佳曲多し。

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2008.09.27

「Strange Device」/Salle Gaveau

現代ギター2008年9月号より転載。

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1作目が衝撃的であるほど以降の展開が難しいものだが、このバンドについては杞憂だった。表現技法としてのタンゴと闘争的改革精神という、ピアソラの本質的な(すなわち表面的な模倣の対極に位置する)要素がますます研ぎ澄まされた2ndアルバム。ロックやジャズの要素を取り込んだ、良質かつ独創的な"室内楽作品"として本誌上で紹介することに躊躇はない。鈴木大介との活動が活発化する鬼怒、オペラシティ10周年記念委嘱作品(小松亮太作曲)初演のソリストに抜擢された喜多をはじめ、メンバー全員が同業者から羨望の眼差しを向けられるほど傑出した技量の持ち主である。ライブで卒倒しないよう、CDで充分予習しておくことをお勧めする。


6/25発売 MABO-025 \2625 (税込価格) \2500 (税抜価格)

メンバー

鬼怒無月(guitar)
喜多直毅(violin)
佐藤芳明(accordion)
鳥越啓介(contrabass)
林正樹(piano)
収録曲

1 Jehu Kido 7:07
2 800% Hayashi 6:53
3 Tingo Sato 8:21
4 Weightless ZOO Hayashi 5:31
5 Strange Device Kido  8:04
6 ROCK-A-TANGO Torigoe 3:46
7 ジョルジュ・ドゥ・ラ・トゥールの?燭 Sato  8:17 (Bougie a Georges de La Tour)
8 Automata Kido 4:46
9 黒いカマキリ ~“Una Santateresa Negra" Kita  8:14
Total time 60:59

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1stアルバム「Alloy」のレビューはこちら

「1作目が衝撃的であるほど以降の展開が難しい」のはレビューを書く立場でも同じである。同じような誉め言葉を繰り返しても仕方ないし。さらにクラシックギター専門誌である「現代ギター」の読者が対象、という制約もある。鈴木大介の名前を出したのは現代ギターの読者なら誰でも知っている名前だから。「オペラシティ10周年記念委嘱作品のソリスト」というのも、クラシック奏者なら大きな勲章だ。

1作目と比較したときの特徴としては、リーダー鬼怒の作品の比重が少し減り、その分他のメンバーが曲を提供していることが挙げられるのだけど、そこは字数的に書ききれなかった。特に喜多がこのバンドのために初めて提供した(書き下ろしではないがバンド用に新たにアレンジした)「黒いカマキリ~Una Santateresa Negra」は聴きモノで、最近のライブで毎回ラストを飾ってます。


残念ながら首都圏でのライブはしばらくないみたいですね。

SalleGaveauライブ予定:

10/9(木) 名古屋TOKUZO(052-733-3709)
10/10(金) 吉良町intelsat(0563-35-0972)
10/11(土) 岡山城下公会堂(086-234-5260)
10/12(日) 岡山城下公会堂(086-234-5260)
10/13(月・祝) 京都ライブスポットRAG(075-241-0446)
10/14(火) 大阪Knave(06-6535-0691)
10/15(水) 金沢もっきりや(076-231-0096)
10/16(木) 甲府桜座(055-233-2031)
10/18(土) Contemporary Music Festival@博多Gate's7(092-283-0577)

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2008.06.07

「想いの届く日」/大萩康司

現代ギター2008年4月号「新譜案内」より大萩康司「想いの届く日」のレビューを転載。

Cd

収録曲は以下の通り:

1. 思いの届く日(カルロス・ガルデル)
2. ロンドンデリーの歌(アイルランド民謡)
3. オーバー・ザ・レインボー(ハロルド・アーレン)
4. サマータイム(ジョージ・ガーシュウィン)
5. 早春賦(中田章)
6. 失われた恋(ジョセフ・コスマ)
7. 星の世界(チャールズ・C・コンヴァース)
8. シークレット・ラヴ(サミー・フェイス)
9. ヒア・ゼア・アンド・エヴリウェア(J・レノン、P・マッカートニー)
10. ミッシェル(J・レノン、P・マッカートニー)
11. ヘイ・ジュード(J・レノン、P・マッカートニー)
12. イエスタデイ(J・レノン、P・マッカートニー)
13. インターナショナル(ピエール・ドジェイテール)
14. ディアナ(ウェイン・ショーター)
15. アリラン(韓国民謡)
16. 愛のロマンス(スペイン民謡)
17. 愛の賛歌(マルグリット・モノー)
18. シラキューズ(アンリ・サルバドール)


大萩にとって初の「名曲集」ともいうべき小品集。魅力的な小品の演奏も印象深い大萩だけに、とりわけ「12の歌」は楽しみにしていたファンが多いだろう。待望の大萩版は情緒に溺れ過ぎず、深みを兼ね備えた明るさを感じさせる音色が特徴だ。武満ならではの"非ギター的"な音遣いの処理にギタリストの個性が現れるわけだが、大萩の演奏は実に軽やかで自然に流れ、そもそもそんな箇所など存在していないかのように思わせる。タイトル曲と「アリラン」はそれぞれアルゼンチンと朝鮮半島を代表する名曲であり、優れた編曲(ビジャダンゴス、金庸太による)と大萩の表現力によって極上のメロディがあらためてクローズアップされた形だ。ディアンス編の2曲と合わせた"4つの歌"はいずれも今後ギタリストの人気レパートリーになっていくに違いない。さりげなく挟みこまれた「ディアナ」のモダンな響きが、これまたハッとするほど美しい。


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以下追記。

記事では「大萩版」のところを「大萩盤」と変更されてしまったのだけど、CD全体じゃなくて「12の歌」について言及しているのだから「版」でいいと思うんですが。まあ細かいことです。

整理しておくと、「12の歌」を全曲録音している日本人ギタリストは僕が把握している限り大萩さんの他に、荘村清志さん、佐藤紀雄さん、福田進一さん、鈴木大介さん(まだいると思いますが)。佐藤紀雄さんはLP時代の録音でCD化されていないので入手は絶望的ですね。鈴木大介さんは2回録音。あと数曲抜粋して録音してる人は村治佳織さんはじめ多数。

レビューに付け加えることはあまりないのだけど、妥協のない選曲は本当に素晴らしいと思う。大萩さんのアルバムは毎回コンセプトがしっかりしているのだけどそれでも、「ジスモンチならそれじゃなくてアレを入れて欲しかったな」といった個人的な願望も含め、「惜しいな」と思う選曲が1・2曲はありました。でも今回は完璧。こういう「名曲集」はなかなかないですよ。「アリラン」は金さんのCDでは二重奏版だったのだけど、金さん自身がよくコンサートで演奏している独奏版も良いアレンジだと常々思っていたから、こうして世に出たのは喜ばしい。「シラキューズ」は僕がライナーノートを書いている竹ノ内美穂さんのCDで聴いて「なんて美しいメロディだろう」と思った曲。大萩さんにはまさにぴったりでしょう。ちなみに竹ノ内さんの演奏も僕は非常に気に入っており、この曲に関する限り甲乙つけ難いと思ってます。MAレコーディングスなので録音クオリティも極上。

選曲について、すぐに気付くのは「禁じられた遊び」と「ディアナ」のみ異質であるということ。この2曲のみ「歌」ではないし。

本人がどこかで触れていたと思いますが、「禁じられた遊び」には大萩さんから母親へのプレゼントという意味合いがあります。彼がギターを始めたのは母親の影響なのですが、にも関わらず、母親にとって馴染み深い曲の録音というのがこれまで非常に少なかった。なので「名曲集」にはどうしても「禁じられた遊び」を入れたかった、という話を伺った記憶があります(記憶が曖昧なのであまり正確ではないかもしれませんが大筋で間違いないと思います)。単に誰でも知っている曲だから入れた、というわけではないんですね。

「ディアナ」だけは当初意図がわかりませんでした。これは渡辺香津美さんがCD「おやつ」に収録するためにアレンジしたもので、その後福田進一さんも録音しています。大萩さんは福田さんの後追いという形での録音が比較的多いのですが、それにしてもなぜこの曲を? そこで本人に直接メールで質問。すると明快な回答が返ってきました。「12の歌」が終わった後、次の「歌」に繋げるための「間奏曲」にしたかった、というものです。これは本人がインタビュー等で話していなければ新事実かな?私信ではありますが、一応ライターとしての正式取材ということで公開させていただきます。

というわけで唯一残った疑問は氷解し、「完璧な選曲」という評価に至った次第です。

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2008.01.07

「The Duo」/鬼怒無月&鈴木大介

現代ギター2007年12月号に掲載されたレビューを転載します。

Duo


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ジャズ、クラシックといったジャンルを超えて活躍する2つの才能が、ジグソーパズルのごとくピタリと相補的にハマり、ギターデュオの傑作アルバムが誕生した。まずはの見事なアレンジに耳を傾けて欲しい。一方がメロディを弾き、もう一方が伴奏するという基本的な構成はほぼ一貫しているのだが、唖然とするほどの"引き出し"の多さ。互いが相手に敬意を払い調和しつつ、魅力を存分に発揮している。この二人でしか創り得なかったという意味において、理想的なデュオ作品だ。有名曲に隠れ名曲・オリジナルを織り交ぜた選曲も素晴らしく、特に鬼怒のライブでは定番の「La Pasionaria」が絶品。
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「一方がメロディを弾き、もう一方が伴奏する」って当たり前じゃないか、と思われるかもしれないけど、クラシックギターではそうとも言い切れず、どちらが伴奏とは言えないようなアレンジもあり得ます(「現代ギター」はクラシックギター専門誌です)。鬼怒さん作曲のオリジナルギター二重奏作品にもそういうものがありますしね。

あと、ちょっとネタばらしをしておくと、「ジグソーパズルのごとく」「相補的に」といった表現は、執筆直前に読んで感銘を受けた福岡伸一著「生物と無生物のあいだ」の影響です笑

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2007.10.31

「Alloy」/Salle Gaveau(サルガヴォ)

過去に書いたCDレビューを少しずつ公開していこうと思います。まずは11月5日にライブを控えたSalle Gaveau。メンバーは

鬼怒無月(gt)、喜多直毅(vn)、佐藤芳明(acc) 、鳥越啓介(cb) 、林正樹(ep)

です。こちらの動画もどうぞ(11月一杯で公開終了のようです)。


Alloy_2


タンゴの持つグルーヴを現代的な手法を用いて再構築するという鬼怒のコンセプトのもとに、タンゴ・ヴァイオリンの技術を極めた喜多をはじめ、ジャンルを超えて活躍する若手トップ奏者達が結集した。変拍子やポリリズムを取り入れた緊張感の高いアンサンブルの中に狂気とロマンチシズムが交錯する、奇跡的なデビューアルバム。曲はすべてオリジナルで、本誌(注:「現代ギター」)2006年6月号に二重奏版の譜面が掲載された「Null Set」(鬼怒作曲)のバンドヴァージョンも収録されている。大ブームから約10年を経て、全盛期のピアソラ5重奏団と対等に比較し得る個性と演奏能力を兼ね備えたバンドが遂に登場したのだ。もちろんこれはタンゴではない。かつてピアソラがそう言われたように。
(「現代ギター」2007年4月号)


最後のところ、説明するのも野暮なんですが、ピアソラ作品は「タンゴではない」と言われるようなものだったからこそ素晴らしかったわけでしょう?「これが21世紀のタンゴである」と言い切っても構わなかったんだけど。

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2005.04.16

UA(+内橋和久)「breathe」ばかり聴いている

UAが内橋和久とのコラボレーションにより制作した新譜「breathe」が良いので、毎日こればかり聴いている。UAのアルバム全曲を内橋さんが作曲、と聞いたとき興奮したけど、まったく期待通りだった。3曲目「Niji」あたりで、不意にジワっと涙腺が緩むこと数回。

8曲、40分少々と短いのだけど、聴き飽きないアルバムだなあ。昨年出た「SUN」、その後のツアーを記録したライブ盤「la」も良かったけど、続けて何度も聴きたくなるアルバムじゃなかった。誤解のないように補足しておくと、内橋さんも参加したライブそのものは最高でした。だが生で体験したからこそ、CDは「記録」に過ぎないんだよなあ。

ビヨークとの類似を指摘する声もあるようである。僕も正直、ちょっと連想した。だが数年来の内橋ファンに言わせれば、これは紛れもなく「内橋サウンド」である。きっとビヨークが真似したんだろ!

って冗談ですよ。ビヨークも好きなので。

【追記】少々補足を。実のところ、僕自身はビヨークを「連想」しただけであって、さして似ているとは思わない。似ているものがあるとすれば、「既存の語法から踏み出したポップス」というイメージである。テクニカルな変拍子のロックにユーモアのセンスが感じられたら「ザッパっぽい」と感じてしまうのと同じだろう。新しいものに接したとき、すでに知っているものに当てはめて理解しようとするのは人間の常だけれど、似ている部分を探すことばかりに執心して、何にも似ていない部分、個性的な部分を見落としたら不幸である。自戒を込めてそう思う。

新鮮だったのは生ストリングスの使い方かな。チェロを中心とする重厚なアンサンブル。予算が多いというのはいいことだなあ(笑・違ったらごめんなさい)。2曲目「Michi」で聴かれるオンドマルトノのソロも美しい(演奏は原田節さん→ピアニスト大井浩明さんによるこのコラムを読むと凄さがよくわかる)。

ギターやダキソフォンの音はまさに内橋さん。特徴的な変拍子とポリリズムは維新派のサウンドトラックでもお馴染みだ。

「”吹かない”サックスプロジェクト」、MUTANTの発するパカパカ音がまたいい味を出している。「何かに似ているなあ」と思ってしばらく考えたらわかった。高良久美子さんがWarehouse等で使っているパーカッション「ブンバカ」だ。ブンバカの発明者も発想は同じだったりして。MUTANTのCDは買いそびれてたけど、今度見つけたら絶対買おう。ちなみに限定300枚である。UA効果で売り切れたりしたら愉快だが、その前にゲットせねば。

ゲストで1曲作詞&デュエットしている青柳拓次さんのボーカルが途中でちょっとコケているのも面白い。こういう部分を指摘して挙げ足をとったつもりになる人がいるが、ライブじゃないんだから、その気になればいくらでも修正効くっちゅーの。何テイクか録った中にはもっと「上手に」歌えているものもあっただろうが、意図的にこちらを採用したと考えるのが自然である。

ちなみに渋谷HMVのJPOPチャートで10位だった。

「アンダーグラウンドからの逆襲」なんてフレーズが頭をよぎる。ROVO、DCPRG(デートコースペンタゴンロイヤルガーデン)といった小さなクラブからスタートしたバンドが野外フェスや大型ライブハウスを賑わせるようになって久しいが、内橋さんのようなアンダーグラウンドシーンの重要アーチストがJPOPシーンのど真ん中に切り込んで成功したケースはほとんどなかったんじゃなかろうか。CDの売り上げは文字通り桁違い(2桁違い?)である。内橋さんもついに印税生活だー

ウィーンに移住した内橋さんの「初来日」はもうすぐだ。4月30日、新宿ピットインにて、かなり久々のアルタードステイツ。

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